レーザー核融合技術で国産電力の実用化へ― Ex-Fusion【Japan Dynamism③】
MPower Partners Team
Dec 10, 2025
Japan Dynamismのテーマに沿ったスタートアップを紹介するパネルイベント、Phoenix Tailings、Transcelestialに続いて取り上げるのは、レーザー核融合技術で国産電力の実用化に挑むEx-Fusionです。同社はMPowerの2号ファンドにとって最初の投資先です。
このパネルでは同社代表取締役社長の松尾一輝氏が登壇し、Ex-Fusionが開発する技術の優位性や戦略、将来の可能性を語りました。モデレーターは深澤優壽です。
登壇者:
松尾一輝氏(EX-Fusion 代表取締役社長)
モデレーター:深澤優壽(MPower Partners パートナー)

燃料は海水から調達&二酸化炭素排出ゼロを実現する核融合発電
深澤:核融合は日経新聞でも取り上げられるなど、実現目前まで来ている技術として注目を集めています。まずはEx-Fusionについて教えてもらえますか?
松尾:Ex-Fusionはレーザーで核融合を起こす企業です。レーザーは指向性が非常に高い光で、特定の場所に特定の情報を早く届けられるほか、1点にエネルギーを無限につぎ込めるという性質があります。この力を使って核融合反応を起こす原理自体は1950年代ぐらいからあり、それを最新の技術で実現しようと取り組んでいます。
日本では2023年度に内閣府によってフュージョンエネルギー・イノベーション戦略という核融合発電に関する国家戦略が定められたのですが、今年その戦略が改定されて2030年代の発電実証を目指すことになりました。核融合発電というと遠い未来の話だとイメージする人も多いのですが、意外と実用化が近いフェーズにあります。
この技術は、発電のプロセスで二酸化炭素を出さないことからカーボンニュートラルの実現につながります。 それだけでなく、海水から燃料を調達できるため、無尽蔵にエネルギーを得られるといえます。つまり技術さえあれば、資源のない日本のような国でもエネルギーを生み出せるのです。
私はもともとレーザー核融合の研究に従事しており、カリフォルニア大学に研究者として勤めていた時期もあるのですが、国産のエネルギーを作りたいという思いがあったため、2021年に日本に戻って起業しました。
モジュール開発によって少ない調達額でも技術実証が可能に
深澤:核融合は時間がかかりますが、今Ex-Fusionがどんなことに取り組み、どの段階にいるのか教えてもらえますか?また世界の同業他社に目を向けると、大規模な資金調達を行い、時価総額が1兆円を超えているところもあります。そうした企業と比べて、Ex-Fusion独自の強みはどんな点でしょうか?
松尾:世界全体で言うと核融合のスタートアップは50社ほどあるといわれており、その80%くらいがアメリカにあります。大きな違いは核融合を起こす方法です。Ex-Fusionではレーザーを使っていますが、他社は磁場閉じ込め型が主流です。特に有名なのはCommonwealth Fusion SystemsというMIT発のスタートアップで、すでに2,000〜3,000億円ぐらい調達しており、試験機を作る段階にあります。
一方、レーザー核融合に取り組む企業はアメリカでは5社程度、国内ではEx-Fusionだけです。われわれの強みは、非常に高出力なレーザーを作って制御できる点であり、この技術を活用して核融合を起こす装置の構築を最速で成し遂げようとしています。あとは装置を使った応用分野にもトライしています。
レーザー核融合の特徴はモジュール開発ができる点です。小さな炉の周りにレーザーシステムを数百台並べる仕組みで、すべて作ると2,000〜3,000億円必要ですが、1台だけ作り切るのなら200分の1で済みます。一方、磁場閉じ込め型の場合はすべて作らないと実証できないため、Commonwealth Fusion Systemsのような企業では全部作っています。
Ex-Fusionの累計調達額は60億円と、Commonwealthに比べて小規模です。それで世界で勝てるのかとよく質問されますが、背景にはこうした違いがあります。少ないお金でも技術の実証を最速で行えるため、国際的な競争力では負けないと考えています。

独自の高繰り返し化技術で、安定したエネルギー供給の実現へ
深澤:ニュースでも話題になったように、ローレンス・リバモア国立研究所ではレーザー核融合技術でエネルギーを取り出すことに成功しました。同研究所との技術の違いも教えてください。
松尾:レーザー核融合はあらゆる方式の中で唯一ゲインがとれている、つまり入れたエネルギーに対して出てくるエネルギーが増えた方式です。2022年にローレンス・リバモア国立研究所が叩き出した数値は1.5倍で、現在は4.13倍です。一方、磁場閉じ込め型の記録は、JETという技術装置で0.69倍です。レーザー核融合だけが唯一1倍を上回っており、非常に注目されています。
ただ、ローレンスの記録は1回の反応の結果で、実際に発電するには繰り返す必要があります。同じ反応を1秒間に10回繰り返さないと、ギガワットレベル、つまり原子力と同等程度の発電量は取れないといわれています。そのため、高繰り返し化が課題なんですね。
弊社では1回の反応を大きく起こすことよりも、高繰り返しで安定して核融合反応を起こす技術に注力しています。これさえできれば、あとはそのシステムを数百台並べれば核融合が完成します。
深澤:ローレンスではゲインは出ているものの、8時間に1回しか打てないんですよね。一方でEx-Fusionが取り組むのは、1秒間に50回以上という非常にスピーディーな高速点火方式で、非常にユニークな技術です。これは実用化に不可欠だといわれています。
松尾:もう1点付け加えたいのは、磁場閉じ込め型は一定の出力を出し続けるのが得意なので、ベースロード電源に向いています。これは原子力発電の安全なバージョンですね。
一方、レーザー核融合は1秒間に10回繰り返して発電します。繰り返す回数を変えると発電量を調整できるので、ベ-スロードになると同時にピーク電源にもなる。つまり原子力発電だけでなく火力発電の置き換えにもなるんです。私はそこが一番よいところだと思っています。日本は毎年20〜30兆円かけて石油、石炭、ガスを輸入して火力発電に使っていますが、新たな技術で国産エネルギーに変えることができる。その実現に向けて、Ex-Fusionでは10回安定した反応を起こすことを技術開発のマイルストーンに掲げています。

目指すは2030年の発電実証とIPO。その後は量産フェーズへ
深澤:Ex-Fusionに対しては核融合以外にもニーズがあり、売上もすでに立っています。そのあたりの可能性についても話してもらえますか?
松尾:売上の項目としてはレーザー加工、つまりレーザーでものを切るとか溶接するといった分脈で、川崎重工やフジクラ、デンソーといった企業と取引があります。Ex-Fusionのレーザーはハイパワーなので、航空機や自動車など大きなものを切ったり早く溶接するのに向いているんです。安全保障文脈でも一定の売上があります。
深澤:ほかにもユースケースはさまざまで、医療分野や宇宙産業などいろんな引き合いがありますが、優先順位はどのようにつけていますか?
松尾:最終ゴールはもちろん核融合です。先ほどもお話ししたように、国家戦略として定められたのもあり、30年代の発電実証を目指して技術実証していきます。それと同時に、レーザー加工だけの案件でも1兆円以上の市場があるので、ハイパワーレーザーでしかできない加工や溶接も積極的に受けていく予定です。
深澤:いつぐらいまでに何を成し遂げたいのか、事業の具体的なロードマップも教えてください。またエグジットの目標はありますか?
松尾:2030年にIPOを目指しています。現在は浜松の自社施設で連続実証に取り組んでいます。1秒間に10回レーザーを使って核のプラズマを作ることはすでに成功しているので、この規模をどんどん上げていく予定です。
最近は浜松ホトニクスさんと共同で1時間の連続運転に取り組んでいます。2030年には24時間の定常運転を成し遂げて技術の実証を終えることを目指しており、IPOもそのタイミングで考えています。それ以降は量産フェーズに入るため、上場して信用力をつけて、日本の企業と一緒に取り組んでいきたいです。
深澤:最後に、国内外とのコラボレーションについても聞かせてください。
松尾:発電実証のフェーズに入ると炉が必要になりますが、1つの炉を作るのに1兆円くらいかかるんですよね。今はレーザー1台分だけなので自社で完結していますが、この先自分たちで炉を何台も作るのは製造能力の観点から難しい。そのため量産化の際は多くの企業と協力する必要があります。またレーザーを作るのにはレーザーの媒質とかミラー、コーティングなどさまざまな材料が必要で、そのためにはサプライヤー側との連携も不可欠です。炉を作る側と材料のサプライヤー、そのコネクタとして進めていければと思います。


