レーザー技術で安全かつ低コストな高速通信を提供 ― Transcelestial【Japan Dynamism②】

MPower Partners Team

Dec 9, 2025

Japan Dynamismをテーマにしたパネルイベント、Phoenix Tailingsに続いて紹介するのは地上と宇宙空間の両方でレーザー通信インフラを提供するTranscelestialです。同社はMPowerの2号ファンドにおける2社目の投資先です。

このパネルでは、Transcelestial 共同創業者兼CTOであり『Nature』など専門誌に多数の論文を発表しているMohammad Danesh博士と、同社に出資するAirbus Venturesの彦坂雄一郎氏が登壇。キャシー松井がモデレーターを務め、レーザー通信技術の詳細やそれがもたらす安全保障上のメリットなどを聞きました。

登壇者:

  • Mohammad Danesh博士(Transcelestial 共同創業者兼CTO)

  • 彦坂雄一郎氏(Airbus Ventures プリンシパル)

モデレーター:キャシー松井(MPower Partners ゼネラルパートナー)

光ファイバーの利点をレーザーで実現する次世代の通信技術

キャシー:2025年の今、高速で安定したインターネット環境は当たり前のようでいて、実はそうでもありません。日本でも災害時には通信が不安定になりますし、私の地元のカリフォルニアも地方では通信環境はひどいものです。さらに生成AIの発展が目覚ましい今、通信量が飛躍的に増加し、それに伴って既存の光ファイバーやマイクロ波に依存した通信インフラの負荷は増大する一方です。

Danesh博士、最初にTranscelestialのミッションとビジネスモデルについて教えてもらえますか?地上の事業だけでなく、宇宙や防衛分野での計画についてもお願いします。

Danesh:Transcelestialでは、誰もが安定したインターネットを利用できるような技術を開発することをミッションとしています。実は、世界では今も約10億人もの人が高品質なインターネットにアクセスできていません。この課題を解決するために、私たちはレーザーを使って、世界中のどこからでも即座にデータや情報を送受信できる次世代の通信技術を開発しています。

現在の世界のデータ通信ネットワークの構造を見てみると、99%のデータが海底の光ファイバーケーブルを通じてやり取りされています。光ファイバーケーブルでは、非常に細いガラスの繊維の束で膨大なデータを送ることが可能です。ただし、敷設には多大なコストがかかるうえ、柔軟性もありません。私たちが日頃Wi-FiやGPSなどの無線通信を使っているのはそのためです。

そこで、私たちは光ファイバーケーブルで用いられる高帯域のレーザーを、レーザーリンクを通して無線で伝送できるようにしたのです。これがTranscelestialのコアとなるテクノロジーです。

この技術は地上でも宇宙でも展開可能です。私たちはまず地上向けの主力商品であるCENTAURIというレーザー通信システムを開発しました。大きさは靴箱ほどのコンパクトなサイズで、最高25Gbpsの速度でポイント・ツー・ポイント通信を最長3kmの距離で行える画期的な製品です。重さは3kg足らずと非常に軽く実用的です。すでにシンガポールで量産体制が始まっているほか、世界各地で大手通信企業による実証実験が進んでいます。

さらに、宇宙空間でも、衛星同士、あるいは衛星と地上との通信に応用できます。Transcelestialでは現在、長期的なビジョンの一環として、レーザーを使って衛星間および宇宙空間と地上の間でデータを送受信する衛星コンステレーションの構築を進めています。

こう聞くと、「SpaceXなどほかの衛星コンステレーションとどう違うのか」と疑問を持つかもしれません。大きな違いは、私たちはレーザーを衛星間通信だけでなく、宇宙と地上の通信にも使う点です。実は、宇宙と地上間の通信で使われる電波(RF)帯域はすでに非常に混みあっているんですね。私たちは宇宙から地上への通信にレーザーを使うことで、通信帯域を従来の1,000倍以上に広げます。

イメージとしては、宇宙からレーザーリンクを通して、地上のあらゆる場所に光ファイバーケーブルを投げ込むようなものです。これにより、これまで通信が届かなかった小さな町や村、山岳地帯でもインターネットにつながる環境を実現します。

検知や妨害、切断が難しい手段として、各国政府の防衛部門が導入

キャシー:可能な範囲で、導入企業や活用事例を教えてもらえますか?

Danesh:地上向け製品の主な顧客はテレコム業界で、世界有数の通信企業に導入されています。アメリカではT-MobileやAT&Tですね。アジアではフィリピンのGlobe、インドネシアのTelkomsel、シンガポールのSingtel、台湾のTaiwan Mobile、そして日本のNTTドコモです。こうした企業には5Gネットワークを拡張するという狙いがあります。

5Gのように新たなネットワークを構築する場合、その地域の基地局を10倍近く増やす必要があります。その際、各基地局に光ファイバーケーブルを接続しなければなりません。ところが光ファイバーを1本敷設するのに、地面を掘って配線用の溝を掘削するなどの作業で1年以上かかります。そして費用も膨大です。しかし私たちのレーザー通信技術を使えば、ケーブルを敷設する代わりにレーザーを使うだけで済みます。これにより、市場へ展開するまでの期間を12か月から1~2週間に短縮でき、設置コストも削減できるのです。

宇宙関連技術では、各国政府の防衛省庁から多くの問い合わせが来ています。現在はシンガポール政府と密に連携し、宇宙関連プロジェクトへの資金提供も受けています。また、アメリカの国防総省やニューヨーク市公共事業局との協業も進めています。最近、日本の防衛省からも初めて受注しました。

多くの機関がTranscelestialのレーザー通信技術に関心を寄せている理由には、先ほどお話した利点に加えて検知や妨害が極めて難しい点があります。データの送受信手段として非常に高い耐性やセキュリティを備えているのです。

光ファイバーケーブルの場合、紛争が起これば切断される可能性があります。それに従来の通信システムは簡単に妨害されます。よくニュースにもなっていますよね。その点、レーザー通信は、きわめて安全です。そのため、各国政府がこのような技術への投資に関心を持っているのです。

先ほどお話ししたように、私たちは衛星コンステレーションを構築する計画を進めています。レーザー通信ネットワークを構築するための重要な構成要素は3つあります。

1つは、衛星同士をつなぐ通信です。衛星は1つずつ順につながる必要があるため、現在私たちはある衛星から別の衛星へとデータを送受信できるレーザー通信端末を開発しています。これは来年後半にローンチする予定です。

2つ目の重要技術が衛星内部に搭載されるレーザー通信端末で、これは衛星と地上をつなぎます。これはダウンリンク・プラットフォームと呼ばれるもので、数週間後にSpaceXのロケットで打ち上げられる予定です。

最後が、光地上局です。これは星を観測する望遠鏡のような構造をしているレーザー光を使ってデータを送受信する装置で、地上側のノード(中継地点)として機能します。現在、この光地上局をシンガポールとスペインで建設中です。

通信という目に見えないインフラで、世界を大きく変える技術を実現

キャシー:彦坂さんはディープテックの領域で長く投資や経営に携わってこられました。ここでAirbus Venturesの投資戦略について教えてもらえますか?さらに以前からTranscelestialを支援されていますが、その背景もお聞かせください。

彦坂:Airbus Venturesは皆さんご存じの航空機製造企業Airbus社の社内プロジェクトとして誕生後、2019年に独立しました。創業当初からの注力分野は航空宇宙や宇宙分野ですが、より包括的な視点で地上のディープテック分野にも広く投資してきました。たとえば、ロケットの打ち上げ、衛星、量子コンピューティングのハードウェアやソフトウェア、ロボティクス、自律制御などラディカル・イノベーションと呼ばれるあらゆる分野です。バイオおよびヘルステックは対象外ですが、それ以外の分野には投資しています。

データ通信はあらゆる大規模技術に不可欠であり、私たちはずっとこの分野に興味を持っていました。しかし2020年当時から、そして2025年の今も、技術の進化を期待しているのですが、正直言うと思ったほど進んでいないとも感じています。データ通信量は増え、需要はあるにもかかわらず、通信インフラが追いついていないのです。私たちは第二次世界大戦時のラジオ技術から発展したインフラをいまだに使っています。4Gや5Gなどの技術は生まれたものの十分ではなく、先ほどDanesh博士の話にあったように今も10億人もの人々がインターネットに接続できない現実があります。

それだけでなく、人類は地球の外側へ、つまり宇宙空間に進出し始めました。火星や月に注目する人々もいますが、そうした場所でも通信技術は必要になる。そこで注目したのがTranscelestialのレーザー通信技術です。当初私はあまり詳しくなかったのですが、調べれば調べるほど、これこそが最先端技術だとわかりました。

ベンチャーキャピタルとして、私たちは漸進的な技術ではなく、世界を大きく変える技術に投資すべきだと考えています。そして、それを実現できる人に投資したい。Transcelestialの創業者はまさにそうした人々でした。

彼らは宇宙での技術展開のみを見据えているわけではなく、地下ケーブルや地上のインフラにも変革をもたらそうとしています。災害や台風、地震が起こると、現在のインフラでは通信が途絶えるリスクがあります。そうなれば多くの物事がストップしてしまいます。

通信技術は目に見えないがために、私たちは普段その重要性を意識していません。しかしその裏には革新を進めている人々がいます。私はTranscelestialの創業者は世界を変える人々だと考えています。

実際にアメリカでは世界最大級の通信インフラ企業や防衛関連企業にとって、Transcelestialが選択肢の1つになっています。つまり、私たちの投資は間違っていなかったということですね。

日本など島国の国土防衛にとって、レーザー通信は最良の選択肢

キャシー:最後にDanesh博士、今後の日本市場での取り組みを聞かせてください。

Danesh:日本はここ数年、戦略的に非常に重要な市場の1つです。すでに日本の4社から投資を受けており、うち2社はここにいますね。あとはNTTが、私たちの技術は日本経済にとって戦略的な利益をもたらすと評価してくれました。

通信は国家安全保障の観点で非常に重要であり、日本のような島国にとってはなおさらです。日本と世界をつなぐ通信は主に海底ケーブルを通じて行われていますが、これを防御するのは非常に難しい。何らかの紛争が起こった際に、潜水艦がケーブルを切断してしまえば、日本と世界との通信が一瞬で断たれます。そうなるとクラウドインフラやデータセンターなどへのアクセスの大半が制限されるでしょう。そのため、国家としてはこうした重要インフラに対してバックアップの接続手段を持つことが極めて重要です。

現在NTTなどの企業は宇宙にデータセンターを構築し、主要なインフラの一部を宇宙に配置する計画を進めています。それらのインフラと地上を接続するには、高帯域かつ高いレジリエンス(耐障害性)を持つ通信技術が必要です。そのベストな手段が、レーザー通信です。これが日本経済にとっての戦略的な利益になる理由です。

加えて、沿岸地域の監視にも大量のデータ収集が必要です。洋上で収集したデータを沿岸に送信し、国土を取り巻く地域の監視や制御、防衛に役立てる必要があります。これは日本だけでなく、シンガポール、台湾、オーストラリアなどの国にも共通する課題です。つまりこれはグローバルな課題であり、だからこそ今回日本に来たのです。

私たちは日本経済の強く持続的な将来を支えるために、この重要インフラの構築をともに進めたいと考えています。

金融分野における深い専門性と、官民を横断しグローバルに広がる深いネットワークを活かし、起業家が未来への道筋を描けるよう支援します。

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