持続可能なレアメタル供給網の実現― Phoenix Tailings【Japan Dynamism①】

MPower Partners Team

Dec 4, 2025

Japan Dynamism(ジャパン・ダイナミズム)―これはMPower Partners Fundが掲げる投資テーマの1つで、日本の成長に重要な分野でイノベーションを進めるスタートアップを支援する取り組みです。

先日行ったLP総会の第2部では、このJapan Dynamismをテーマにしたパネルイベントを3部構成で実施。ブログではその内容を3回に分けてお伝えします。

まずはMPowerの投資先であるPhoenix Tailingsの共同創業者2名を迎え、同社が開発した環境インパクトの少ないレアメタル精錬技術と昨今の地政学的背景について、村上由美子が聞きました。

登壇者:

  • Nick Myer氏(Phoenix Tailings 共同創業者兼CEO)

  • Tomas Villalon氏(Phoenix Tailings 共同創業者兼CTO)

モデレーター:村上由美子(MPower Partners ゼネラルパートナー)

クリティカルミネラルの精錬技術で世界の97%を席巻

村上:Phoenix Tailingsは環境に優しい方法でレアメタル製品を生産する技術を開発しただけでなく、中国に依存しないサプライチェーン確立の鍵を握るスタートアップです。ニックさん、まずはPhoenix Tailingsが取り組む内容を紹介してもらえますか?

Myer氏:創業は2019年です。ビジョンはたった1つで、世界初の完全にクリーンな鉱業・金属精錬企業になること。ますますテクノロジー化が進む未来を、廃棄物&炭素排出量ゼロで支えることを目指しています。

私たちが注力するのは、クリティカルミネラル(重要鉱物)の精錬です。鉄や金など大昔からある金属は、新たな鉱山を掘削し、地面に巨大な穴を開けて取り出します。しかしレアアースをはじめとするクリティカルミネラルの場合、掘っても出てくるのは土です。その土のなかに17種類のレアアース元素がすべて混ざっているのですが、そのままでは使えません。それらを取り出して個別の酸化物(粉末状)に分離し、さらにその酸化物を金属や合金に精錬する必要があるのです。

Phoenixが世界で最も優れているのは、この酸化物を金属に変換する技術です。その工程で、私たちは世界のサプライチェーンの97%を席巻しています。Phoenixは現在、西側諸国でレアアース金属・合金を精錬・生産する企業としては最大級です。私たちは酸化物を金属に変えるだけでなく、地中にある未処理のレアアース濃縮物を取り出して分離する処理も行います。鉱山廃棄物から最終的な金属精錬に至るまで、一貫して担えるバリューチェーンを確立したのです。

現在はマサチューセッツ州ボストン近郊の工場で年間40トンの金属を生産していますが、今月末にはニューハンプシャー州に年間200トン規模の新工場が操業を開始する予定です。こうして私たちが日本、韓国、ヨーロッパ、アメリカで高性能磁石の製造能力を支えることで、自動車や家電など日常生活に欠かせない製品が生み出されます。私たちはこれを廃棄物&排出量ゼロ、かつ競争力のあるコストで実現しているのです。

村上:大量生産に関しては今どの段階にあるのでしょうか?そしてPhoenix Tailingsの技術はあらゆる原料に対応できるのか、それとも特定のものに限られるのか、教えてもらえますか?

Villalon氏:この分野では「常に均一な原料を供給し続ける」という発想は現実的ではありません。お客さまのニーズに応えるためには、どんな原料でも処理できる柔軟性が非常に重要です。そこで私たちは、異なる供給源から異なるタイミングで原料を受け入れられるようシステムを強化し、どんな原料を扱っても均一な製品を生み出せるようにしています。

生産能力の拡大については2つの方法があります。1つはリアクターそのものを大きくすること。これは工学的なアプローチに焦点を当てるやり方で、実際に私たちもこの方法で規模を拡大してきました。もう1つは、最適なサイズが決まった段階でそのユニットを複数設置する方法です。これにより運用面から生産量を増やせます。私たちは顧客のニーズや製品の種類に応じて、サイズの拡大とユニット数の増加、どちらの方法でも対応できるようにしています。

クリーンで低コストな生産方法で、中国に代わるサプライチェーンへ

村上:サプライチェーンの安全保障は日本にとって非常に大きなテーマであり、政府も中国との関係でいくつかの対策を講じています。Phoenix Tailingsの取り組みは日本の長期的な資源戦略にとってどんなメリットがあるのでしょうか?

Myer氏:現在の日本市場の大きな課題の1つは、レアアース磁石を必要とする企業が、コストの観点から中国企業と合弁会社を作って現地で製品を調達してきた点です。これは当時は非常に合理的な判断でした。

しかし今は事情が変わっています。中国政府が生産量を制限し、日本に輸出されるレアアース金属のすべてを管理しているからです。

そこで私たちが目指すのは、新たなレアメタルの供給手段を提供することです。実際に、日本の大手企業、たとえば磁石メーカーや完成品メーカーが安定した供給源を確保できるようにしています。サプライチェーン全体を担うとまではいかなくても、日本企業が事業に専念できるよう、いつでも確実に利用できるリソースを提供すること。そしてそれによって競争力や機会を確保できるようにすること。これはPhoenixが創業以来掲げるミッションそのものです。

村上:Phoenix Tailingsの生産工程は中国とどこが違うのでしょうか?

Myer氏:生産工程に関しては、Phoenixの工場があるマサチューセッツ州とニューハンプシャー州には中国よりもはるかに厳しい環境規制があります。中国での生産工程は非常に問題です。工場では労働者が平均2年で入れ替わり、深刻な健康被害が起こっているのです。私たちはそうした健康リスクとは無縁です。完全なクローズドループで持続可能な生産工程を実現し、安定した供給を保証できる体制を整えています。これにより、Phoenixは金属化の工程において優位なポジションを確保し、中国に代わるレアメタルの有力な供給源となっています。

村上:それでいて、価格面での優位性もあると?

Myer氏:疑問に思うのは当然かもしれません。私たちが創業当初に優先したのは、持続可能性でした。その結果、廃棄物や二酸化炭素を排出しないシステムを構築し、工程全体をリサイクルできるようになりました。これによってユニットあたりのコスト効率を保ち生産コストを下げることができたのです。

さらに、安定化された化学処理を用いることで、中国で行われているような廃棄や排出を伴う不安定な化学処理よりも1トンあたりのコストを大幅に抑えられます。こうした取り組みによってマージン改善を最適化でき、結果としてアメリカという生産コストの高い国で操業しても、コスト優位性を実現できるのです。

村上:Phoenix Tailingsでは特許やトレードシークレット(営業秘密)を多く保有していると聞いています。少し紹介してもらえますか?

Villalon氏:Phoenixの特許やトレードシークレットは「防御可能な強みをいかに構築するか」を軸に考えています。

代表的な特許の1つは「液体金属サイフォン」です。これは稼働中のセルに装置を差し込んで金属を1秒以内に取り出せる技術で、従来は15分かかっていた工程を大幅に短縮します。節約した時間は金属生産に回せるので効率が飛躍的に上がるうえ、作業員がセルに直接触れる必要がなくなるため、安全性も大きく高まります。

トレードシークレットはシステムの運用方法そのもので、その要はニックが言った化学処理ですね。クリティカルミネラルの処理で一番コストがかかるのは、原料そのものと、それを処理する化学薬品です。Phoenixではシステムの完全リサイクルによって化学処理の安定性を維持しているだけでなく、化学薬品を再利用することで、使用量を最小限に抑えつつ、得られる価値を最大化しています。

村上:社名のTailingsの意味は「廃棄物」、つまり鉱山廃棄物ですよね?社名の由来を教えてください。

Myer氏:はい、Tailingsはまさに廃棄物で、前半の「Phoenix(フェニックス)」は灰から蘇る伝説の鳥です。

Phoenixが長期的に取り組むのは、鉱山廃棄物の活用です。それらは、アメリカ、日本、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界中に大量に存在しています。原料を新たに採掘して環境を破壊するのではなく、鉱山廃棄物を取り除いて環境をきれいにして、それらをレアアース金属合金の原料として利用するのです。

この実現に向けて、現在はHATCH社と協力して採掘事業の拡大と、鉱山廃棄物から高付加価値のレアアースを回収する取り組みを進めています。これは国家安全保障の観点からも重要です。

中国のレアメタル輸出規制を受け、安全保障の観点から事業を加速

村上:技術的な観点から、この分野に新規参入するのは難しいのでしょうか?ほかにも同じようなことをする企業やスタートアップは多いのですか?

Villalon氏:はい、今まさに多くの企業がこの分野に参入しようとしています。過去6か月の間に10社以上が立ち上がりました。

大きな障壁は、過去40年間、中国以外でこの分野のシステムに誰も携わっていない点です。そのため、化学処理を理解して事業を展開するために必要なナレッジが欠けているのです。

その点、私たちは自社の化学処理を開発する際に、アメリカで最初にレアアースの化学処理を行った人から直接指導を受け、蓄積されたナレッジを受け継ぎました。さらに10年以上セルやリアクターの開発を進めていた企業(HATCH)を買収し、その知見も統合しました。これにより、化学とエンジニアリングを組み合わせて新しいシステムを完成させることができたのです。

その結果、私たちは他社よりも20年分ほど先行しています。この時間的なアドバンテージによって、知的財産を守れるだけでなく、ナレッジをすぐに活用できる状態で市場に参入できるのです。

村上:アメリカや日本以外で、この分野に活発に取り組んでいる国はありますか?鉱業や処理技術の面で有望な国はあるのでしょうか?

Myer氏:ご存じのとおり、中国はレアメタルのサプライチェーン全体を支配しています。2番目に大きいのはロシアです。ロシアは戦闘機MiGのためにレアメタルに巨額投資を行いました。MiG戦闘機は主に三重構造のアルミニウム合金、つまりレアメタルでできています。

それ以外ではミャンマーが最近参入しましたが、中国やロシアと同様に地政学的な課題があります。西側諸国では、オーストラリアが大規模な採掘および精錬技術を備えつつありますが、強みは資源面にあり、技術面はそれほどでもありません。

実際の技術力では、日本、韓国、アメリカが依然として世界をリードしています。またベルギーでも新たな技術を導入する動きがあります。

村上:最近はワシントンDCで大変お忙しいと聞いています。アメリカ政府が現在レアメタルのサプライチェーンの安全保障についてどのような議論や政策を進めているのか教えてもらえますか?

Myer氏:ここ数か月は非常に慌ただしい状況でした。この春、中国がレアメタル輸出の規制を発表したのです。こうした事態はアメリカ史上初めてのことでした。

アメリカは主導権を握るのに慣れています。軍は世界最大規模の力を持ち、基本的には何でも思いどおりに動かせます。現政権は大いに危機感を抱き、中国に対して強硬な姿勢を見せ、市場操作に断固として対抗する構えです。私たちとしても、その方針は心強いものです。

とはいえアメリカはクリティカルミネラルの備蓄を使い果たしつつあり、打ち手を模索する政府内では混乱と焦りが見られます。ちょうど2週間前、私はアメリカでは「ゲルマニウムの在庫切れ」になったことを知りました。ゲルマニウムは衛星や半導体に不可欠な元素であり、それが尽きたということは新たな衛星を作れないことを意味します。Lockheed MartinやRaytheonといった企業にとっては不安な状況です。

こうした事態を受けて、アメリカ政府は資金を一元管理する新体制を導入しました。それまでは陸軍、海軍、空軍、沿岸警備隊といった機関がそれぞれ個別に予算配分や政策を決めていましたが、現在は国家エネルギー支配評議会(NADC)があらゆる予算配分を統括しています。その結果、クリティカルミネラル関連の予算は5億ドル規模から一気に70億ドルへと増えました。

すでに4億ドルのエクイティ投資と価格保証も行われており、今後もさまざまな企業や分野に同様の資本投入が進むでしょう。私たちはここ数か月でホワイトハウスに3回招かれました。ボストンの小さな会社としては非常にエキサイティングなことです。現在、事態は急展開しており、年内にもクリティカルミネラルに限らず国家安全保障関連のあらゆる分野で大規模な資金投入が始まるはずです。政権は迅速に資金を回すことに本気で取り組んでおり、よい意味でも悪い意味でも、これまで以上のスピードで進んでいくでしょう。

村上:最後に、今後12か月間の主な目標は何でしょうか?技術面・事業面の両方で教えてください。

Villalon氏:設備を稼働させ、顧客への出荷を開始することに尽きますね。レアメタルには需要があり、実際に製品を待っている顧客がいます。今やるべきは、工場を稼働させ、金属を生産し、顧客に届けることです。

Myer氏:私の考えも同じです。今後数か月の予定は、まず現在の工場を稼働させること。これは今月中に実現予定です。それから工場の生産能力を広げ、さらに大規模な工場建設に向けて資金調達を進めます。すでに生産している製品を顧客に届けることが最優先です。

ただし、もっとスピードを上げる必要があります。この春の中国による輸出規制は世界市場にとって大きな警鐘となりました。Phoenix Tailingsは現在の市場において非常に有利な立場ですが、このチャンスを生かさなければなりません。当初5年計画だったものを18か月に短縮し、「このスピードで拡大する」と決めること。それが次の目標です。

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