女性起業家の力を引き出す視点と仕組み【SHE Leads WE Rise 投資家パネルレポート前編】
MPower Partners Team
Mar 6, 2026

国内スタートアップにおける女性起業家の割合は全体の約1割にとどまり、2024年の資金調達額上位100社のなかで女性起業家による調達額は1%にも届きません。この「1%の壁」を越えるために何が必要なのかを考えるため、女性起業家・女性活躍推進に特化したWPower Fundは2月に招待制イベント「SHE Leads WE Rise」を開催しました。
当日は東京都の小池百合子知事の講演、MPower Partnersとボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が共同で実施した「スタートアップ調査: 女性起業家を取り巻く課題と解決策」の解説に続き、スタートアップサポーターによるパネルディスカッションを実施。WPower Fundの機関投資家である三菱UFJ銀行の北川千晶氏と東京海上ホールディングスの生田目雅史氏を迎え、投資家と女性起業家双方に求められる意識や、女性リーダーが持ちたいマインドセット、大企業との連携の可能性、投資家の役割などについて聞きました。
パネリスト
北川千晶氏(三菱UFJ銀行 常務執行役員 ウェルスマネジメント担当)
生田目雅史氏(東京海上ホールディングス 専務執行役員 グループデジタル戦略総括)
モデレーター:キャシー松井(MPower Partners ゼネラル・パートナー)
「控えめ」な女性起業家の潜在能力を拾い上げる仕組みが必要
キャシー:おふたりは「スタートアップ調査」の結果をどのように見ましたか?想定どおりだったでしょうか?
北川:2点、思うことがありました。1点目は「控えめ」というキーワードです。今こういう立場にいる私でも、ポストの打診などがあると「いえいえ、私なんか」と思わず言ってしまうんですね。これを変えるのはなかなか難しいのですけれども、当人が「嘘も方便」という意識で前に出ることが大事であると同時に、「控えめな姿勢がいろんな現象として出るものだ」という点を周りが理解することも必要だと改めて感じました。キャシーさんは「ちょっと多めに背中を押す」とよく言われますが、私も本当にそれを周知しないといけないなと。
もう1点はライフステージによって間が空くという問題をどうやって解決するのか。アウトソーシングの活用なども含めて環境を整えるべきなのですが、私自身も社内でこの話をしていきたいと感じました。

生田目:スタートアップの最大の価値は創造性とスピードです。特に社会全体として創造性が大きく欠けているから、スタートアップをもっと盛り上げていこうとなっているわけです。それなのに人類の半分を占める女性の能力を存分に引き出せていないのは、仕組み全体が制度的には十分ではないということ。制度に関わるあらゆる人が現状を変えなければならないと思いました。弊社がWPower Fundに参加した理由もそこにあり、われわれ自身が取り組みを進める必要があると感じます。
皆さんも感じているかもしれませんが、既存の仕組みは投資家にとって居心地がいいんですよね。それゆえにスイートスポットが見えているような意思決定をするケースもあり、全体として飛びぬけて新しい価値が出づらい風土がまだある。今日のレポートは熟読して、われわれも勉強しなきゃいけないと思っています。
キャシー:事前の打ち合わせでは、「男女のプレースタイルの違い」という言葉もありました。
生田目:調査でわかったように、女性起業家は比較的小規模の調達から始めて見事に高い企業価値を実現しています。資本市場のルールからいえば、こんなに効率的な経営はない。むしろそちらにスポットライトが当たらないといけないのに、そうでないのは先ほど申し上げたようにマジョリティが今の仕組みに居心地がいいからという結論になります。

北川:私はスピード感、評価額、IPOの数字を見て、こんな心強い結果はないと心のなかで叫びたい思いでした。母数が増えれば変わるかもしれませんが、この数字はしっかり伝えないといけない。また女性起業家は上場までの間にガバナンスなどの体制を整えるなど、守りの面で得手の部分が出ているのかなと思いました。
生田目:付言すると、われわれ投資家も女性起業家の潜在能力、あるいは顕在しているものの強くは表現されていない部分をしっかり拾うべきだと思います。「その経営者はこういう表現をしているけれども、その裏にはこういう世界観がある」というのを理解する必要がある。われわれ投資家が起業家の夢をどれだけ一緒に見られるかがとても大事ですよね。
北川:投資家側の役割は、メンバー1人ひとりが起業家のファンになってスケール化に伴走することです。女性起業家の調達額や評価額の少なさは、われわれ自身の問題だと改めて思いました。

女性リーダーに必要なのは頼ること&任せること
キャシー:スタートアップでも大企業でも女性リーダーはまだまだ少数です。そんななかで起業家にはどのような意識が必要でしょうか?北川さんのバックグラウンドも含めてお聞かせください。
北川:私が銀行に入ったのは1991年ですが、当時は男性と同じ仕事を任されることはなかなかなかったんですね。そんななかで私は「法人融資を担当したい」と上司にはっきり伝えました。上司は戸惑ったと思うんですけれども、任せてくれたのには本当に感謝しています。お客さまからは相当抵抗がありましたが、その上司が同じお客さまに3回も4回も説明してくれたんです。すると途中からお客さまの態度も変わり、「女性の前例がないからといって違いにばかりフォーカスしない方がいい」と言ってくださるようになった。生き物としてはほとんどが一緒だし、事業という大変な戦いのなかで見るのは「使えるか使えないか」しかないんだからと。
振り返ると、いろんなチームのなかで「助さん格さん」のように頼れるサポーターを作れたことが、ここまで来るうえで大きかったのかなと思います。仕事は自分1人でできるわけではありませんから。私が見てきたなかでは、すべて自分でしなきゃと思う女性が多いように思います。しかし、人に任せられれば、大きな組織のマネジメントができる。拡張性という意味では、それも1つの要素として大事だと思います。
キャシー:確かに、女性には完璧主義者が圧倒的に多い印象です。すべて自分でやった方が早いとかね。生田目さんは大企業における女性リーダー不足についてどのように見ていますか?
生田目:先ほど申し上げたように、今は創造性で戦う世の中になっているわけですよね。 創造性不足の企業において、女性という最も有効活用できるリソースを使い切っていないことがいわゆるJTCの問題だと感じます。ダイバーシティや女性のリーダー不足の問題を、数字合わせのような命題だと考えているのなら、その企業は未来に向かって創造性を育む姿勢が乏しいんじゃないかと。むしろ、数字なんかもすっ飛ばすぐらいの積極的な取り組みをすることで、その企業の創造性をどれだけ最大化できるかが命題だと思っています。
私はたまたま外資系企業に勤めた期間が長く、若い頃から女性の上司が結構いました。モルガン・スタンレー時代の上司であるルース・ポラットさんは、現在AlphabetのCFOです。彼女との仕事は大変勉強になりましたし、VISAにいたときのリージョンヘッドはエリザベス・ビュースさんという業界では有名な女性の方でした。そのように女性上司が当たり前にいる世界から日本を見ると、ギャップを埋めるのにしっかり取り組まなければと思っています。
(後編に続く)
