社会の扉広く開けよ 優秀な外国人迎えるために

Yumiko Murakami

Apr 3, 2026

最近ある女性科学者に会う機会があった。米ミシガン大の徐蓁(じょ・しん)教授(生体医工学)である。ソニーグループと英科学誌ネイチャーが科学技術分野で卓越した成果を上げた女性をたたえる「ソニー・ウィメン・イン・テクノロジー・アワード・ウィズ・ネイチャー」の2026年の受賞者の一人だ。世界のがん治療を根底から変えつつある科学者である。

弱まる米国の磁力

徐さんは中国の南京出身で、東南大を卒業した後、ミシガン大の大学院に進み、05年に博士号を取得した。

彼女は治療のための超音波技術の開発を研究対象としている。メスも放射線も使わず、超音波でがん組織を破壊する革新的な医療技術「ヒストトリプシー」を開発した。米食品医薬品局(FDA)の承認を取得し、多くの患者が治療を受けているという。現在は肝腫瘍の治療に用いられ、将来的には腎がんや膵(すい)がんなど多岐にわたる疾患の治療に使われることが期待されている。

今年2月、徐さんは米タイム誌の「ヘルスケア分野において世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた。彼女と話しながら、米国への頭脳の流入は果たしてこれから先も続くのだろうか、という問いが私の頭をよぎった。

昨年1月に発足した第2次トランプ政権は各種ビザの発給審査の厳格化を進め、移民規制を強めている。かつて「機会の国」として世界中の人材を磁石のように引きつけた米国が、今や自らその力を弱めている。

私がアドバイザーを務めている米国の大学では今年、外国人による出願が激減している。同様の傾向が多くの米大学で生じているようであり、日本からの留学生の減少も予想される。こんな事態がもし二十数年前に起きていたら、徐さんはビザの壁に阻まれ、ヒストトリプシーは生まれなかったかもしれない。

こうした米国の変化は日本にとって対岸の火事ではない。米国から弾き出された人材をどう取り込むかという議論がある一方で、「日本も外国人に対してより慎重であるべきだ」という排外的な政策論が頭をもたげてきたからだ。

少子化と労働力不足に見舞われながらも、社会の同質性を守りたいという心理は根強いようだ。確かに外国人受け入れによって多様性が高まる局面では、社会的摩擦が生じやすいという研究もある。

多様な人材必要

ただし、このような研究の多くは、長期的には多様性が社会に恩恵をもたらすと結論付けており、外国人排除の論拠として使うことには注意が必要だ。

そもそも、なぜ多様な人材が必要なのか。答えはイノベーション(技術革新)の本質にある。

同質的な集団はコミュニケーションコスト(情報伝達や意思疎通のために必要な時間や手間)が低く、短期的な効率は高い。しかし似たような教育を受け、同様の価値観を持つ人間が集まっても、そこから根本的に新しい発想は生まれにくい。異なる文化的背景や問題意識、思考がぶつかり合うときにこそ、既存の枠を壊すアイデアが生まれる。

日本の経済社会が直面する問題は切実だ。生産活動や消費の中心的な担い手である生産年齢人口は既に減少に転じ、50年代には総人口が1億人を下回るという試算もある。労働力不足が多くの産業で臨界点に近づいている状況で、外国人の受け入れ抑制などといった政策をとるのは、経済的には自傷行為に等しい。

事態打開に向けて政府が「優秀な外国人を受け入れる」ことを望むのであれば、日本は「選ばれる国」でなければならない。現状でも言語の壁や硬直した労働市場、手続きが煩雑な行政制度といった問題があるのに、排外的な政策を講じれば選ばれる国になどなれるわけがない。

移民規制を強める米国の例から学ぶべき教訓は明らかだ。「来たければ来い」という傲慢(ごうまん)な態度で優秀な人材を遠ざければ、じわじわと、かつ確実に国としての競争力を損なうという代償を払うことになる。前途有望な外国の学生や研究者が日本を選んでくれるかどうかは、私たちが社会の扉をどれだけ広く開けられるかにかかっている。

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