日本、主体的に地位築け 国際秩序動揺で大きな試練

Yumiko Murakami

May 27, 2025

トランプ氏が1月に再び米大統領の座に就き、「米国第一主義」を掲げて政策運営を進めている。関税の相次ぐ引き上げや国際援助の削減といった内向き志向の強い施策によって、国際秩序が大きく揺れ動き、世界経済全体に悪影響を及ぼしつつある。

勢力図に変化

米政府の通商政策の変化が日本経済に及ぼす影響は顕著である。3月から4月にかけて、米国は日本に対して自動車や鉄鋼、アルミニウムに関税を課した。わが国を含む多くの国・地域を対象に一律10%の相互関税も導入している。

関税引き上げによって日本の実質成長率は今年、来年ともに0.6%の低水準にとどまる、と国際通貨基金(IMF)は予測している。日本政府は米国側に対して関税撤回を要請しているが、現時点で目立った進展はない。

米政府は通商政策のみならず、途上国への開発援助政策も大きく見直した。対外援助を担う国際開発局(USAID)の解体を進め、国際秩序における勢力図に変化をもたらしている。多くの途上国支援プロジェクトが打ち切られ、米国のソフトパワー(文化や価値観など非軍事の国力)は著しく低下しつつある。

米国の空白を埋める形で中国が影響力を拡大しており、アジアやアフリカにおける地政学的バランスが崩れる懸念が出てきた。

こうした国際環境の変化に、日本は重層的な対応策を講じる必要がある。関税については米政府との交渉を粘り強く推し進めると同時に、アジアやアフリカ、中南米の新興・途上国「グローバルサウス」との経済的な連携を強化すべきである。

日本政府は昨年「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針」を策定し、インフラ整備の協力や貿易・投資の推進、技術移転を実施してきた。とりわけ人工知能(AI)や気候変動、エネルギーといった分野での協力を通じて、相手国と信頼関係を構築しつつ、日本の技術的優位を生かす外交が展開されている。

最近の米政府の孤立主義的な政策に鑑みて、日本は地理的に近く、経済的、文化的、歴史的にも関係が深いアジアとの関係強化に特に注力しなければならない。

日本は自由貿易体制の維持についても重要な役割を担う。現在アジア、太平洋地域では日本が主導する「環太平洋連携協定(TPP)」と、中国が加わっている「地域的な包括的経済連携(RCEP)」という二つの広域通商協定が併存している。どちらも貿易、投資の自由化を目指す枠組みだ。

戦略再編

TPPが知的財産権の保護や国有企業の規律に関する高水準のルールを含むのに比べ、RCEPは加盟国の多様性を踏まえた緩やかな枠組みとなっている。日本としてはTPPのルールを安易に緩和することなく保ち、法の支配や法的透明性を軸とした経済秩序の維持、拡大を図るべきだ。

そうすることで日本は自由貿易体制の守護者として国際的な信頼を集められる。同時にアジア、太平洋地域における自由貿易圏創設を巡る中国との競争で、戦略的優位を確保することも可能になるだろう。

トランプ政権はリベラル系大学への助成金凍結に加え、外国人留学生や研究者に対する奨学金の一時停止にも踏み切ったという。こうした外国人締め付け策は、日本にとって高度人材を獲得する好機でもある。多くの優秀な人材が新たな研究拠点を求めているからだ。高度人材を受け入れて研究開発力を強化し、産業競争力を向上させるビジョンがほしい。

特にアジア諸国からの留学生や研究者にとって親和性が高い日本への移住は、魅力的な選択肢になり得る。経済面も含め研究環境を向上させ、わが国を国際的な人材の拠点(ハブ)としたい。

米国第一主義に基づいたトランプ政権の一連の施策は日本にとって重大な試練となるものの、外交、通商、人材戦略を再編成する良い機会でもある。

日本は安定した対米関係を維持しつつ、グローバルサウスとの連携強化や自由貿易体制の維持、高度人材受け入れを柱とした措置を講じて、主体的に国際的地位を築くグランドデザインが求められている。

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