私たちがRukitaに投資した理由【後編】
2024.03.26 Yumiko Murakami, Miwa Seki, Kathy Matsui, Xia Ye

私たちMPower Partners Fundはなぜ、東南アジアのスタートアップRukitaに投資したのか。その理由を知っていただくべく、前編では同社の成長の背景にあるインドネシアの住宅事情を解説しました。後編ではRukitaのビジネスモデルや将来像について詳しく紹介します。

Rukitaのビジネスモデルとそのフライホイール効果

Rukitaは現在、主力の長期住宅賃貸事業を中心に、物件管理、物件改装、レンタル関連のマーケティング、マーケットプレイス、そして金融ソリューションの5つの事業を展開しています。それぞれの事業セグメントはお互いに補強し合う形でフライホイールとして機能しており、それが高い競争優位性を生み出しています。

Rukitaが提供する7つのサービスがスマホやパソコンの画面に映し出されている

同社が提供する主なサービスは次のとおりです。

  • Rukita App: テナント向けアプリ。部屋探しの機能がメインで、注文、決済、清掃、メンテナンス等あらゆるリクエストの送信も可能
  • RuManage App: 物件オーナー向けのアプリ。入居率の追跡、部屋の状態のモニタリング、テナントデータの確認、月間の運営レポートの生成等、一連のタスクをワンストップで完結できる
  • Infokost.id: 2022年3月に買収したインドネシア初のコス検索サイト。 様々な機能を更新・強化し、現在は100万室超の物件を掲載するほか、5万人の物件オーナーにサービスを提供している
  • RuFalcon: 自社開発のデータ統計ダッシュボード。周辺の土地と物件の相場価格、テナントの取引履歴に基づく与信データを高い粒度で毎日収集する。物件オーナーはハイパーローカル(hyperlocal)で入居状況をリアルタイムに管理できるほか、Rukitaに登録した物件の基本情報(profile)を可視化し、商談中のプロジェクトを見ることも可能。オンライン(infokost.id)とオフライン(オーナー関係担当者)でデータの信憑性を拡充し、将来はあらゆる場面で活用できるデータべースとなる予定
  • RuFinance: OCBC NISP(現地大手銀行)と共同開発した不動産管理のためのフィンテック・ソリューション。比較的高収入で不動産投資に興味を持つ若年層に向けて、OCBC NISPが物件の購入やリノベーションに必要な融資を支援し、Rukitaがデザイン、改装、物件管理サービスを提供する。不動産投資家は物件を適切な条件で購入し、コスに改装した後長期レンタルや売却することで自分の投資ポートフォリオを拡大できるようになり、マクロの観点から不動産投資の活性化が期待できる

Rukitaの将来像

Rukitaにとっての長期賃貸住宅ビジネスは出発点にすぎません。Rukitaはテナントの成長と共に「住まい」を提供するという目標を掲げ、学生向けの住宅、ジャカルタで働く単身の若手会社員や新婚カップル向けのアパート、家族または子育てに適した住宅等、顧客のライフステージに沿って、それぞれのニーズに合わせた最適なプランを次々と出し続けています。

また現在のインドネシアには与信システムがないため、住宅ローン関連の金融商品の設計は簡単ではありません。この課題に対しても、Rukitaは地元の銀行2社と共同で物件オーナーやテナント向けの資金調達ソリューションを開発しています。

近い将来は、短期の部屋探し、リノベーション、マーケットプレイス、住宅ローンなどの資金調達、そしてデータの提供等、レンタル住宅の「スーパーアプリ」を目指しています。

起業家ストーリー

Rukitaの創業者姉妹の写真。ふたりとも黒いジャケットを着用。左に立つサラは手をみぞおち前にそろえ、右に立つサブリナは腕を組んでいる

Rukitaの創業者はSoewatdy家の姉妹、サブリナとサラです。

サブリナとサラは1980年代に華僑系のインドネシア人の家庭に生まれ、幼少期までインドネシアで暮らしていました。1998年の華人排斥暴動で、女性・子供も含めた1,200人以上の中国系インドネシア人が虐殺されたことを機に、身を守るため家族と離れてシンガポールのボーディングスクールに入学。中学校から高校まで2人は支え合って過ごした後、2人ともアメリカの名門大学に進学し、20年以上も故郷を離れて過ごしました。その間もインドネシアに戻りたい、母国に貢献したいという気持ちは変わらず、とうとう2019年にジャカルタで起業したのです。

CEOのサブリナは事業戦略と開発を担当しています。パーソンズ美術大学でアートの学士号を、UCLAで建築インテリアの修士号(MA)を取得したサブリナは、この10年間ニューヨークやジャカルタで住宅ソリューションを提供する経験を積んできました。現在は母国の発展に貢献するためインドネシアに戻り、Rukitaを通じてインパクトを生み出ことに力を注いでいます。若い世代の住宅ニーズと資金需要に応じた持続可能なソリューションを提供し、「あなたと共に成長する住まい」を実現することがサブリナの夢です。

COOのサラはオペレーションの担当として、企業運営の中心的役割を果たしています。彼女は物件オーナーと戦略的パートナーシップを結ぶことに注力しつつ、物件の稼働率の改善やテナントの生活体験向上のための様々なタッチポイントを管理しています。南カリフォルニア大学で国際関係とグローバルビジネスの文学士号を取得し、Rukitaを立ち上げる前には10年以上、マスマーケットをターゲットにしたホスピタリティ業界で経験を積んできました。

姉のサブリナを「攻め」のリーダーだとすると、サラは「守り」の役割を担っています。サブリナが大局的な観点からRukitaの現在と将来の青写真を描き、サラが誰にも負けない忍耐力と根性でその青写真を実行に移しているのです。不動産業界における豊富な経験と深い理解を有する2人のリーダーシップによって、Rukitaは急激な成長を遂げ、設立からわずか4年でインドネシアにおける長期賃貸住宅の代表的なプロバイダーとしての地位を固めました。現在はインドネシアの15の主要都市で350のオーナーと連携し、1万5千室以上を管理しています。

最後に

社会インフラの底上げには国と政府の力が不可欠です。私たちがインドネシアを訪れて感じた課題は、インフラ設備の脆弱さ、物流コストの高さ、そして経済の運営効率の低さでした。

インドネシア政府は近年、国の基礎インフラを改善する目標を立て、より魅力的な投資およびビジネス環境を提供するために継続的に努力しています。現任のジョコ大統領は、3500億ドルの大規模な基礎インフラ建設プロジェクトを積極的に推進し、空港、高速道路、港、貯水池、発電所、地下鉄などの施設を建設して雇用創出と経済成長を成し遂げてきました。こうした基礎インフラ建設支出は、不動産業界のあらゆる面で需要を喚起し、経済のさらなる成長を刺激することが期待されています。

その1つ、重要駅周辺にある未開発の空き地を住宅化するプロジェクトにおいて、Rukitaはインドネシア最大の地下鉄運営会社であるPT KAIとジャカルタMRTから提携パートナーとして選ばれました。このような賃貸用建設(Build-to-rent)プロジェクトは、今後の新しい成長軸として期待されています。ほかにもRukitaは、環境に優しい建材の使用や再生可能エネルギーの導入、コミュニティの運営を通じた若年層世帯へのよりよい住宅環境の提供などに取り組み、今後ますます社会にポジティブなインパクトを与えていく予定です。