スタートアップがESGを実践すべき8つの理由
2022.07.28 Kathy Matsui, Yumiko Murakami, Miwa Seki, and Yuna Sakuma Playbook

以前のブログ記事「ESGとは?MPowerが考える定義とその本当の意味」では、ESGとは企業が持続的に成長するための戦略フレームワークであることを踏まえ、各領域で具体的に考えるべきポイントの例をお伝えしました。今回は、そのESGがなぜスタートアップにとって重要なのかをお伝えします。

ESGの実践で財務パフォーマンスが向上

私たちが生きる現代社会には、企業や団体の枠を超えて取り組むべき大きな課題があります。その最たるものが気候変動で、解決には組織だけでなく私たち1人ひとりのアクションが欠かせません。

ところが従来のスタートアップのエコシステムでは、成長スピードを重視するあまり、そうした社会的責任から目を背ける風潮もありました。熾烈な競争環境で必死に戦う創業者が、何年も先の未来を考える余裕を持てないは仕方がないのかもしれません。しかしたとえアーリーステージでも、ESGの実装で大きなメリットを得られると聞くとどうでしょうか?

実はさまざまな研究から、ESGと財務パフォーマンスとの間には強い相関関係があり、長い時間軸ではそれがますます顕著になることがわかっています。その要因を分解すると、8つのメリットが見えてきました。1つずつ見ていきましょう。

1.グローバルトレンドの先行者利益を確保

上場企業ではここ数年、ESGの実践度と関連情報の公開が特に重視されるようになりました。この動きは非上場の市場でも高まりつつあり(詳しくはこちらこちらから)、投資家やステークホルダーがスタートアップに求め始めるのも時間の問題だと考えられます。ESG実装には多くの時間やリソースがかかるため、少しずつでも早い段階から取り組むのがベストです。

2.ESGを求める顧客トレンドに対応

社会課題に対する認識や危機感が深まるにつれ、世界的に見ても、消費者はミッションや社会への影響を重視するブランド(例:環境に優しい、チャリティ活動に積極的)を選ぶ傾向にあり、その逆を連想させるブランドは競争力を落としています。なかには消費者が「地球のため」に進んで追加費用を払う市場もあるようです。

3.優れた人材を確保

テクノロジー企業やスタートアップで働く若い世代や、まもなく社会に出る若者たちは、企業におけるESG実践の重要性をよく理解しています。パーパス・ドリブンな企業を選ぶ傾向は、おそらくパーパス・ドリブンなブランドから購入する傾向よりも強いでしょう。その証拠に、就職先を選ぶ際の重要な要素として、多くの人が従業員の多様性を挙げています(こちらもご参照ください)。

4.従業員エンゲージメントを改善

3番目のポイントとも関連しますが、ESGを軸とする企業では従業員の満足度やモチベーション、生産性が高い傾向があります。というのも、従業員は企業が社会にもたらす効果や「還元」を非常に重視しているからです。研究によると上場企業では従業員の満足度が高いほど、業績も高いことがわかっています。

5.リスク管理を強化

包括的なESG戦略を備えることは、ステークホルダーを悩ませる要素(例:顧客データのプライバシーやセキュリティ、特定の従業員に関する問題処理)に対する措置を講じるのと同じ意味を持ちます。もちろんある程度のリスクは常に存在するものの、行動やプロセス次第ではそれらリスクの影響を最小化することが可能です。

企業が通常のビジネス指標にESG要素を加えると、幅広いステークホルダーの視点を考慮できるようになり、あらゆる角度から潜在的なリスクに気づくことができます。実際、企業でよくあるリスクの約30%はESGの領域にあります。つまりESGの実践自体がリスク軽減策となり、ほかの方法では見えなかったリスクの兆候を見逃さず拾い上げることができるのです。

6.イノベーションを加速

企業がESGのプロセスやアプローチを実践すると、ビジネスに対して長期的な視点が得られるため、未来の顧客について考慮できるだけでなく、ステークホルダーの視点をより理解できるようになります。その結果、成長のための新たな方法が見つかり、売上のチャンスも広がるでしょう。

7.戦略がより明確に

ESG戦略を策定するプロセスでは、CEOや経営層に長期的・戦略的な思考が欠かせません。言い換えれば、ESGこそが事業の戦略を考えるツールとなるのです。経営層はこのツールによって、自社の優先事項を洗い出し、それらを企業のパーパス、ミッション、バリューと紐づけて、ゴール達成度を測ることができます。

8.資金調達が有利に

VC業界がESG要素にますます注目するにつれ、ESGの実践は資金調達で有利になります。ESGを重視するVCがようやく出始めた日本でさえ、多くのファンドが少なくともデューデリジェンス時のスクリーニングにESGを活用するようになりました。この投資プロセスにESGを組み込む流れは今後数年で加速するでしょう。また世界的にも、創業後間もないテクノロジー系スタートアップに関心を持つ機関投資家がESGの要素をますます考慮するようになっています。

以上、ESGを実践すべき理由を一気に洗い出しましたが、ここまで網羅したものはこれまでなかったかもしれません。ESG実践のメリットを十分理解したところで、次回はESGの実践において外せない必須のテーマを一緒に見ていきましょう。