資本市場で社会課題解決に取り組むユニファがESGを実践する理由
2022.06.30 Yumiko Murakami and Yuna Sakuma

社会における課題を解決したい、そんな熱い思いから誕生したスタートアップは数多くあります。そしてその多くは、思いの実現と資本市場での成功の両立に挑んできました。

そんななか、保育や子育てを取り巻く課題の解決を目指すユニファ株式会社は、その両立への道筋を早くも見出しています。その鍵こそ、MPower Partnersとともに進めてきたESGの実践です。

今回は、社会課題解決型スタートアップのユニファがESGをどう捉え、その実践によって資本市場でどのような成功戦略を描いているのか、代表取締役CEOの土岐泰之氏と取締役CFOの星直人氏に聞きました。

ESGは事業の中長期的な価値を説明できるフレームワーク

もともとユニファでは自社ウェブサイトにサステナビリティのページを設けるなど、SDGsへの貢献に力を入れてきました。そんな同社がESGというフレームワークに取り組み始めたのは「それがユニファの事業の意義を説明する手段として最適だったから」と、土岐氏は説明します。

「そもそもユニファは保育にまつわる社会課題を解決するスタートアップですが、今後上場も視野に入れるなか、その意義を資本市場に対して明確に説明できる必要があると考えていました。社会課題と一口に言っても、人によってその物差しはさまざまです。ESGという枠組みを使えば、社会全体に及ぼす中長期的な価値について、財務的なリターンも含めてステークホルダーにきちんと説明できるようになります」。

さらに星氏は、「資本市場ではSDGsよりもESGがデファクトスタンダードになっている」点をつけ加えます。「各フレームワークにはそれぞれのメリットとデメリットがあるので、どれか1つだけがよいと思っているわけではありません。しかし資本市場との対話を考えた場合、まずは王道としてESGのフレームワークを活用したコミュニケーションが効果的だと考えています」。

つまりユニファにとってのESGは、資本市場で説明責任を果たすためのベストな手段と言えるでしょう。

従業員を幸せにする人事制度や福利厚生に注力

「テクノロジーの力で、もっと家族を豊かに」することを目指すユニファでは、保育施設向けにICTサービスを提供するほか、「スマート保育園・幼稚園・こども園」構想を推進しています。

そんな同社にとって、最も力を注ぐのはもちろんS(Social)の分野です。なかでも保育施設の人手不足解消や保育関連業務の負荷の軽減は同社の重点課題であり、その解決によって女性のさらなる社会での活躍や子どもたちの教育の質の向上を目指しています。

また社内でも「家族の幸せを生み出すインフラを作る企業で、従業員やその家族が幸せでないと何も進まない」という考えのもと、人事制度、福利厚生、採用プロセスを作り上げてきました。現在は女性リーダーの更なる比率アップを目指すほか、男性を含めた育休取得の推進に力を入れています。

大企業並みのガバナンス体制を早期に構築

事業内容にかかわるSだけでなく、G(Governance)もユニファの重点領域です。星氏はその理由として、「スタートアップでは一般的に創業者の持ち分が多いため、社会の公器としてガバナンス体制がしっかりしているかどうかを資本市場に示すことは極めて重要」だと語ります。

同社ではGの具体的なアクションとして、MPowerが参加したシリーズDの公表と同時に監査等委員会設置会社への移行を公表しています。さらに、社外取締役については単なるお飾りではなく、経営状況に対して「2周先の視点から」の付加価値をもたらし、社内カルチャーにもフィットする人材を約2年かけて招聘。ユーザベースの松井しのぶ氏、西村あさひ法律事務所の岩瀬ひとみ氏を迎えました。

こうした取り組みは大企業並みの内容であり、スタートアップとしては異例です。しかし星氏は、「上場したからやるのではなく、非上場でありながらもやるべきことをやるという姿勢を持つことでで、企業として目指していく方向やアイディンティが明確になる」と指摘します。

「よい習慣は幼少期から身につけた方がよいのと同じで、スタートアップも早期からESGに取り組めば、よい考え方や物差しを取り込みながら企業としてのアイデンティティを確立できます」。ただし、視座は高く持っているものの、最初から大企業と同水準でやろうと背伸びしすぎず、自分たちができることを一歩ずつ進めているそうです。

ESGの実践でユニファの軸や哲学が明確化

こうしたESGの取り組みを通して、土岐氏は企業としての軸を改めて認識できたと話します。

「これまで事業の数値化は経験がありましたが、自分たちの思いをなかなか定量化・可視化できていませんでした。ESGのフレームワークによって、他社との違いや、大事にすべき価値の部分が具体的に共有できるようになったのは大きなメリットです。さらにそれを伸ばすためのアクションを考えることで、次の施策や数字にもつながっています」。

Sの領域に子どもという視点を追加したのも同社ならではです。土岐氏は「製品やソリューションにどう繋げていくかはこれからの話」としながらも、「子どもの権利をどう考えるか、子どもの思い出をどう残していくか、さらにそれをどうデータで活用するかといった視点は、ESGのSの領域の議論を深めるなかで気づいた点であり、ユニファが持ち続けるべき軸、哲学だと考えています」と続けます。

星氏も、「スタートアップにとって重要なのは、自分たちの独自性ととその熱量の根源を見つけること」だと話します。「ESGの実践によって企業としての独自性を洗い出す一つのきっかけになるからこそ、スタートアップはできるだけ早くESGを実践をすべきでしょう」。

ESGという共通言語を用いて資本市場を味方に

ESGの実践により、自社の軸を再認識して優先課題を洗い出し、成長のためのアクションに取り組んできたユニファ。土岐氏はここまでの取り組みから、「資本市場を味方につけながら社会課題の解決に本気で取り組むならば、ESGという共通言語をベースに事業や組織、財務を組み立てていくのが大事」だと強調し、さらにこう続けます。

「企業や事業の価値を高めて、社会課題の解決を進められる手段であれば、できることはすべてやるのが経営者の責任です。ESGという有益な手段が資本市場の共通言語としてあるならば、活用しない手はないでしょう」

ユニファ株式会社  代表取締役 CEO 土岐 泰之氏

ユニファにおけるESGの取り組みは、同社ウェブサイトの「サスティナビリティ・ESG」ページにまとめられています。領域ごとの重点課題やそのプロセスの詳細をぜひご覧ください。

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