新しいPRIレポーティング:フレームワークの変更点と将来期待したい分野とは
2023.08.28 Trista Bridges

責任投資原則(PRI)は、ESGの原則とアクションを投資活動に組み込むためのレポーティングフレームワークとしてもっとも広く利用されています。署名した機関の数はわずか5年間で150%増え、現在その数はざっと5,381社。今やPRIは金融サービス業界にすっかり定着しました。

なかでも喜ばしい点としては、プライベートエクイティファンドの間でPRIへの署名が広がっている点です。現時点で署名するプライベートエクイティの数は633社。大規模なプライベートエクイティファンドはもちろん、今や小規模なベンチャーファンドでも関心が高まりつつあります。

PRIの署名機関となるのは決して簡単ではありません。ベンチャーファンドなど小規模な金融機関であればなおさらです。その一方で、PRIには次のようなメリットがあることが見えてきました。

  1. PRIに署名する金融機関が増えるにつれ、ネットワーク効果が表れ始めています。この効果によって、署名機関のパートナーである新興の中小金融サービス企業がPRIの世界にどんどん加わるでしょう。また署名機関が増えれば、シームレスなレポーティング体験を求める勢いが増し、署名機関の体験が継続的に改善されるというメリットも考えられます。ほかのサステナビリティフレームワークとの相互運用性の向上はその1つです。
  2. 世界中のさまざまな司法管轄区(EU、日本、アメリカ)でサステナビリティリスクへの注目が高まっているなか、PRIに署名すれば金融機関のサステナビリティリスク管理システムの導入または強化が可能になります。
  3. 署名機関がPRIへのレポーティングを成功させるには、ステークホルダーの連携が必要です。特に投資パートナーとポートフォリオ企業の連携は欠かせません。投資家はPRIプロセスへの取り組みをきっかけに、ポートフォリオ企業とESGについて定期的かつ密に連携しやすくなるでしょう。

この2年間、PRIに大きな動きはありませんでした。というのも、PRIチームがレポーティングフレームワークとオンラインツールの刷新に取り組んでいたからです。

その後2023年の頭にリリースされた新たなフレームワークには、1,700の署名機関からの意見が取り込まれました。以前より指摘されてきた問題に対応するための主な変更点は次のとおりです。

  • 内容をより明確にして、曖昧な箇所を最小限に
  • 一貫性と応用性を高め、広く浸透しているほかのサステナビリティフレームワーク(TCFD、TNFDなど)との相互運用性を求める声に対応
  • 必要なデータの粒度を下げ、指標を減らし、指標構造をシンプルにしてレポーティングの手間を削減

では、新しいフレームワークは狙いを達成したのでしょうか?その答えは現在のレポーティング期間が終わった秋頃にわかるはずですが、私たちは最近レポーティングプロセスを終えた立場として、ひと足先にいくつか気づいた点を共有したいと思います。

まず新たなフレームワークでは、気候変動関連の開示にますます重点が置かれ、TCFDと明確に連携できるようになりました。TCFDは種類や規模を問わずさまざまな組織が合意する気候変動開示のグローバルスタンダードとして台頭してきており、この進展はとりわけ重要です。さらに、人権も以前より大きく重視されています。投資家が責任投資原則の実践に取り組んできた一方で、このトピックにあまり目を向けてこなかった点を考えると、こちらも重要な進展です。

その一方で、今後の発展に期待したい分野もあります。たとえば、生物多様性の要素をもっと取り入れること、署名機関がさらなる背景情報や実例など裏づけとなる証拠をより多く提供できるようにすること、そしてサステナビリティの成果の部分で必須のレポーティング要件を増やすこと。今後、基本的なESGレポーティングからダブルマテリアリティそしてインパクトへと徐々にシフトするにつれ、サステナビリティの成果は投資家と投資先の双方にとって焦点となると予想されます。

ほかにも、フレームワークでは必須化されていないものの今後注目されるであろうトピックは、 潜在的な投資(企業とプロジェクトの両方)を評価する段階における、サステナビリティのリスクと機会の組み込みです。投資家がこのアプローチを定量的に実践するのはかなり難易度が高いものの、これは責任投資の根本的な前提を捉えています。その前提とは、ESG要素を組み込んだ、あるいはサステナビリティを重視したビジネスモデルを持つ投資対象候補は、時間が経つにつれて価値が高まり、結果的に高い評価額の恩恵を受けられるということです。

金融サービス分野における責任投資の主な枠組みとして確立されたPRIが、自らのアプロー チに磨きをかけ続け、ベンチャーキャピタルなど重要性を増す署名機関グループにどんどん働きかけているのは心強い動きです。今後PRIの署名機関が増え、世界的なレポーティング基準(ISSBなど)の合意ができ、サステナビリティが標準的なレポーティングから成果へと進化するにつれて、PRIは改訂を重ねると予想されます。それにより署名機関のレポーティング体験がますます高まり、将来的にはサステナビリティと特に関連する分野との連携が深まるでしょう。