資産運用立国の実現へ好機 国民の金融知識向上図れ
2024.01.30 Yumiko Murakami

※この記事の内容は、弊社ゼネラル・パートナーの村上由美子が共同通信社に寄稿したものです。

2023年の日本の株式市場は目覚ましい騰勢をみせた。日経平均株価は歴代3位となる約28%の年間上昇率を記録し、海外の市場と比べても勢いが際立った1年となった。24年に入ってもその傾向は続き、日経平均は1月22日に3万6000円の節目を終値で突破。1989年末に付けた過去最高値3万8915円の更新が視野に入りつつある。

日本株再評価

昨年来の上昇相場は、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が三菱商事をはじめとした商社株を買い増す意向を表明したのを受けた、海外機関投資家による日本株再評価が原動力になった。

このほか、1株当たりの純資産に対して株価が何倍かを示す「株価純資産倍率(PBR)」の改善やデフレ脱却への期待も相まって、日経平均はバブル経済崩壊後の高値更新を繰り返している。

日本政府は海外勢による国内投資の誘致に躍起だ。岸田文雄首相が22年5月、英金融街シティーで「日本経済は力強く成長を続ける。安心して日本に投資してほしい。インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と訴えたのは記憶に新しい。

23年12月には「資産運用立国」実現の政策プランを取りまとめ、その柱の一つとして、海外勢の参入を促す資産運用特区の創設を盛り込んだ。

実際、日本株の外国人保有比率は上がり、近年は3割を超える水準に達している。日本株が上がるも下がるも外国人次第と言われるゆえんだ。

過去を振り返ると、海外勢の積極投資を契機とした日本株買いブームが何度か起きているが、持続的な株高につながっていない。今回も一過性のブームに終わるのか、それとも株高の勢いは続くのか。その鍵は海外勢ではなく、日本の個人投資家が握っているのではないだろうか。

2千兆円超と推定される個人の金融資産が日本経済の成長期待を反映する形で継続的に投資に向かえば、海外勢もその流れを追いかけ、相乗的な市場の上昇要因となる可能性が高い。

注視すべきは、1月から始まった新たな少額投資非課税制度(NISA)である。非課税期間が無期限となり、投資期間も恒久化され、個人投資家にとって資産を形成しやすい内容になった。

新NISAに期待

米国では1970年代に、企業年金制度や福利厚生制度の設計、運営を規定する「エリサ法(従業員退職所得保障法)」が制定され、確定拠出年金制度の一つ「401k」も導入された。これらは社会全体の投資意欲を高め、個人が自助努力で資産を形成する動きも後押しした。日本でも新NISAのスタートにより、同様の効果が期待される。

この機を逃さず、国民全体の金融リテラシー(お金に関する知識や判断力)を高める対策を迅速に実行することが求められる。

労働市場が資産形成に関する個人の意識に大きな影響を及ぼす点にも注目したい。年功序列や終身雇用が主流の日本では、退職金や年金を含む労働者の資産の形成を雇用者側がほぼ丸抱えする構造になりがちだ。

前述の401kが導入されたのをきっかけに、米労働市場の流動性が高まった。401kは転職で会社が変わっても積み立てた年金の原資を持ち運べるポータビリティーが担保された設計になっている。労働者は年金への悪影響を心配することなく転職できる。

日本では退職金の扱いについて、税制上の中立性が必要であると以前から指摘されている。だが、現状は同じ会社に長く勤めるほど退職金への課税が優遇される状況が続く。

こうした仕組みの是正は転職意欲を高めるだけではなく、個人が資産形成に主体的に取り組むよう促すだろう。個人投資家の存在感の高まりは、企業にも良い影響を及ぼすと考えられる。

短期的な投機ではなく、長期的に資産を形成しようとする投資家に選ばれる企業になるには何が必要なのか。

持続可能な形で企業価値を向上させるだけでなく、情報開示の質を高め、投資家との対話に真摯(しんし)に取り組む企業こそが評価されるはずだ。今は、個人投資家が主力となって日本を資産運用立国へ導く好機である。これを逸してはならない。